一見すると、チェスもボードゲームの一種に見えるでしょう。盤上でコマを動かし、対戦相手と知略を巡らす——これだけ聞けば、「完全にボードゲームじゃないか」と思う人も多いはずです。しかし、実際には多くのボードゲーム愛好家がチェスを「別ジャンル」として捉え、逆にチェスプレイヤーもボードゲームを「軽い遊び」として見下す傾向があるのです。
この“距離感”の背景には、いくつかの文化的・思想的な違いが存在します。
チェスは“ゲーム”というより“競技”と捉えられている
ボードゲーム愛好家の多くは、プレイ中の笑いやコミュニケーション、ストーリー性、多様なメカニクス(ゲーム進行システム)を楽しみます。たとえば「カタンの開拓者たち」や「カルカソンヌ」「ディクシット」などでは、戦略と同時に偶然性や交渉も重要な要素になります。
一方、チェスは運の要素が一切なく、純粋な頭脳戦です。そのため、チェスは“遊び”よりも“競技”として認識されがちで、プレイヤー自身もそれを誇りにしています。トーナメント、ELOレーティング、記録された名局など、チェスの世界はスポーツ競技のような雰囲気を持ちます。
チェスプレイヤーは“知能重視”、ボードゲームは“楽しさ重視”
チェスプレイヤーの中には、「知能で戦う純粋なゲームこそ本物」という考えを持つ人も少なくありません。ランダム要素やパーティー性の高いボードゲームは、「頭を使わない子どもの遊び」として認識されることがあります。
特に、チェスがオリンピック参加を目指していることや、AIとの対戦で人類の限界が試されてきた歴史を考えると、チェスプレイヤーが“ボードゲームとは一線を画す”という態度を取るのも納得できるかもしれません。
ボードゲーム愛好家から見た“チェスの不自由さ”
一方で、ボードゲームの世界は年々進化し、多様性と創造性を誇ります。ダイスを使うもの、カードを使うもの、協力型や非対称型など、そのジャンルは実に広いのです。ボードゲーマーの中には、「チェスは古典的すぎて発展性がない」と感じる人もいます。
また、チェスは“初心者が勝てないゲーム”としても有名です。ボードゲームでは、運や協力によって初心者でも勝つチャンスがある一方、チェスでは経験者に歯が立たないのが現実。これが、ボードゲームファンから敬遠される理由の一つとなっています。
歩み寄りの余地はあるのか?
チェスもボードゲームも、本質的には「テーブルを囲んで人と対話する遊び」です。お互いにリスペクトし合えば、両者の面白さは共存できます。
たとえば、チェスのようなアブストラクト系ボードゲーム(例:オンイット、タク)も人気が出ており、チェスプレイヤーがボードゲームに興味を持つ入り口にもなっています。また、ボードゲームイベントでチェスのブースが設けられることもあり、少しずつ“共存”の道が見えてきているのも事実です。
チェスもボードゲームも、それぞれ独自の魅力を持っています。文化として、あるいは遊びとして、それらが交わることで新しい世界が広がるかもしれません。争うのではなく、遊びの多様性を認め合うこと——それこそが、現代のゲームカルチャーに求められている姿勢なのではないでしょうか。